白と黒の境界線

日々徒然をネットの隅に残す記録簿 専門は社会教育と文化振興

なぜ官製ワーキングプアはなくならないのか

【官製ワーキングプアとは何か】

公務員など官に属する業務で働くワーキングプアのことである。主に非常勤職員や臨時職員のことを言う。郵政民営化以降は「官から民へ」のスローガンの元、民間委託や指定管理者制度が活発になった。そうした「見なし公務員」、委託会社の職員の中でも雇用問題、ワーキングプアが問題になっている。

【綾長も元官製ワーキングプア

元図書館・生涯学習施設の職員。指定管理者の正社員。自治体は民営化が活発だが、問題も多い。複数の他業者の元従業員が雇い止め訴訟や雇用訴訟を起こしている。雇用問題で自治体の悪徳業者が雑誌の特集、新聞に取り上げられたことがある。

ワーキングプアは社会が生み出す】

ワーキングプアを自治体が作っている(2012年)
http://toyokeizai.net/articles/-/11273?display=b

以下、抜粋。

「非正規の割合が多いのは、出先機関の住民への直接サービス分野で、最も目につくのは相談員だ。消費者や労働、年金などの分野に携わる。とりわけ消費者生活相談員は10人いれば9人は非正規だ。このほか4割以上になっているのは図書館、保育園。保育園の保育士は6割近くが非正規になっている。図書館は委託職員を含めればもっと高い。それぞれきちんとした公共サービスの担い手になっていて、多くは女性だ。この人たちがいなければ、そのサービスが立ち行かなくなっている現実がある。」

【中略】

「日本型雇用システムが公務員の世界にも入り込んでいるから、非正規は女性のパート労働と同様の扱いとして見られてきた。」

2012年時点では非正規公務員は5人に1人、50万人代であった。女性の仕事だから賃金低くても良いでしょ、という男社会の本音が見え隠れ。


自治体の官製ワーキングプア23万人増、正規公務員30万人減(2005-2016)、非正規職員の4分の3は女性なのに産前産後休暇なしなど「マタハラを制度化」している自治体も(2016年)
http://editor.fem.jp/blog/?p=2819

正規公務員は減っている、非正規公務員は増えている。少子高齢化、災害対策、貧困格差、福祉需要の増大等々により公務員の仕事自体は増加傾向にある。

ちなみに厚生労働省強制労働省というのは公務員界で有名なギャグです。

地方自治体の職員3人に1人(70万人)が非正規職員!格差是正を求め東京で決起集会!(2016年)
http://xn--nyqy26a13k.jp/archives/12317

2016年にはついに3人に1人の70万人まで膨れ上がった。しかし、良く見るとこの数字には警察官や教員の非正規は含まれていないようだ。私の知り合いには非常勤教員がいた。激務の割には待遇が悪すぎるので今は教員を辞めている。つまり官製ワーキングプアは70万人以上いる。更に言えばこの数字には委託会社の正社員は含まれているのだろうか。私は委託正規の司書であったが、年収は200万代、福利厚生は社会保険のみ、休日は90日、若手管理職を勤めていた。これは非正規と変わらないのではないだろうか。


【女性は結婚して養ってもらえるから、そんな幻想が苦しめる貧困社会】

ワーキングプアは官製に止まらない。社会全体で非正規は増加傾向にある。特に女性の非正規(貧困問題)は悲惨である。そこには女性=結婚するから働かなくて良い、女性=安く使える、という社会構造の問題がある。
また、女性が多く働いていた事務職の非正規化が進んでいる理由もある。公務員の現場もまた事務職が多い。しかし、公務員の場合は人の命や人生を背負う業務がある。ただの事務職と言えるだろうか。


アラフォー・クライシス “不遇の世代”を襲う危機
https://www.nhk.or.jp/gendai/kiji/071/

以下、抜粋

非正規雇用で独身というアラフォー女性の数は、ここ10年余りで16万人から52万人に急増した。背景には、多くの女性の受け皿になっていた事務職での正規採用が激減し、派遣に置き換わったことがある。若者や女性の貧困について取材しているノンフィクションライターの飯島裕子さんは、「子育てをする女性が働きやすい環境や社会が実現されていく一方、非正規のアラフォー女性が抱える苦しい状況は改善されていない」と指摘。彼女たちの多くが社会からの疎外感や孤立感を感じており、「アラフォー・クライシス」は、男性よりも女性のほうが深刻だと訴える。」


「一度も働いたことない40〜50代大卒娘」を抱えた高齢親が増加中
「花嫁修業」「家事手伝い」弊害も
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51910

以下、抜粋。

「これまで日本では、女性は未婚時代には親に、結婚してからは夫に養われる前提で、安く働く存在として扱われてきた。

その状況はいまでも変わらず、「女性の活躍」と言われながらも、働く女性の非正規雇用比率があがっているのが現実である。実際、2015年の国民生活基礎調査によると、働いている女性のうち半分近くが非正規雇用である。」

「未婚で無業のまま40代になってしまった女性も少なくないのではないかと思われる。30代など、もう少し早い時期に、何らかの外部の支援とつながることができていれば、ボランティアから始めて仕事へ移行する、といったその人に合わせたゆっくりとしたペースで自立へのステップを踏めたかもしれない。

だが、30代の間は、本人も親も「結婚すれば問題はなくなる」と、問題を先送りにする場合が多い。ところが、未婚のまま40代になって、いよいよ「このままではずっと未婚・無業のままかもしれない」と親子ともども不安になり、役所に相談に来る、ということだ。」


【官製ワーキングプアはなぜなくならないのか】

国家も地方も金がない。財源はあっても社会保障といった福祉の需要が大きすぎて、そちらに金を優先的に使わざるを得ない状態があげられる。

特に私が働いていた自治体はずば抜けて金がなかった。私が退職する手前で自治体から「給料をアップさせたくてもこれ以上は難しい。施設の部屋等を利用しても良いので指定館が独自で稼いでください。」という方針に変わった。そして公務員が働いていた直属の部署は廃止され、直営の非常勤公務員は解雇された。私は自分から職場を去った。図書館員は私の憧れの職業だった。

月収13万円、37歳女性を苦しめる「官製貧困」
公営図書館の嘱託職員は5年で"雇い止め"に
http://toyokeizai.net/articles/-/134801?display=b

この事例は図書館界ではありふれた日常なのだが、この方の場合は前職がブラックで疲労していたこと、「やりがい」で搾取されいつかは切られる仕事を続けてしまったこと、等の不運があげられる。

ここで良く言われるのが「同一労働同一賃金」の問題である。悪いのは正規と非正規の格差が激しいこと。私も同一労働同一賃金が実現すれば、事態は解決するのではないか、と思っていた。ただし、それは利益を組織に還元する民間企業だからできるのではないか、最近はそう考えるようになった。

「賃金上げるとしてもどこから出すの?」

もともと予算が決まっている公務員の世界でどこかを上げるならどこかを削らなくてはならない。公務員の残業代は予算がなくなればサービス残業に切り替わるように、人件費削減のために正規公務員が減って、非正規公務員が拡大しているように、それこそ賃金上げれば今度は非正規の頭数が減るのではないか。この女性がずっと雇用されていく保証はないのではないだろうか。

正規公務員の給料を減らして非正規公務員の賃上げしろ、という意見もある。継続年数だけ高い無能な仕事をしない公務員はそれで良いと思う。しかし、若手や中堅公務員ははっきり言って給料は高くない、若手に労働の負担がかかっている状態だ。おまけに苦労して入る割には、労働の対価に見合わない、外部からの批判が強い、優秀な人ほど民間に戻っていくという。そんなことになったら、そもそも公務員になりたい人なんているのだろうか?私も同一労働同一賃金になったら、正規公務員を辞めて指定管理で図書館司書を続けると思う。

そもそも今の新卒は公務員界が意外とブラックだとわかってきているので民間の方に行く人が増えている。結局、官に優秀な人材が来なくなれば、国家や地方を動かすブレーンがいなくなる、やる気のある人が減ることに繋がる。実質的には日常生活も改善し辛くなるであろう。

【もう非正規雇用を増やすのを辞めたらどうか】

私としては、もう非正規公務員を増やすのを辞めたらどうかと思う。もう1人当たりの負担が更に増えるのは仕方ない。その代わり現在の非正規公務員を準公務員のように格上げして、正規公務員よりは仕事の負担や待遇は減るが、ワーキングプアにはならない、というポジションにしたらどうか。当然、非正規公務員時代よりは責任や負担は増えるだろうが、それは正規も同じなので、同じ自治体の職員同士痛み分けすれば良い。人件費の予算内で、非正規の頭数を減らして、非正規1人当たりの人件費、負担を上げる。これならワーキングプアは減るのではないか。(もちろん従来のようにパート的な働き方が良いなら予算の枠で雇えば良い)

ここで問題なのは共倒れしないかということである。前の自治体でも自殺や過労死は普通に一年で何人もいるけれど、報道されることも社会問題になることもほとんどない。東京の地方自治体でこれなんだから、霞ヶ関や体力のない地方自治体はどうなってしまうのか、ここでは考えないことにする。

更に、人手を減らすということは窓口や手続きにかかる時間も増えてしまう可能性がある。マイナンバーの連携が広がれば手続きも安全かつ簡単になり、人手を減らしても問題なくなるかもしれない。現状では人手を減らす=サービスの質が向上する、とはなかなか言い切れない。官に携わる人間が減れば、日々の生活に支障がでてくるだろう。

あと面倒なのは民営化で運営が官から切り離されているパターンである。ご存知のように委託の中には悪徳業者というのもいる。民間は利益を上げるのが目的であるから、自治体から受け取った金を運営費や人件費やらで引いて、残った分を会社の利益としている。

前の会社に至ってはそもそもが赤字運営であったので、あまり当てはまらないかもしれない。あのTSUTAYA図書館も赤字だった。利益を上げづらい分野なので、業界から撤退する業者も少なくない。

如何にしても、労働者を下手に見るような求人には近づかないことが大切である。働き手がこなくて困るのは業者であるから。その辺の悪徳求人に関して図書館については、以下のサイトがかなり熱心に分析している。

公共図書館(公務員)・国立大学図書館の司書になる!

図書館業務委託ビジネスはコスト競争で消耗するジリ貧商売
http://bookserial.seesaa.net/article/453390044.html

以下、抜粋。

「図書館ビジネスは収益を上げるのが困難な商売のため、仕事に見合う対価として給料に反映されない。求人に応募する際は、その辺を覚悟しておかなくてはいけないのである。」

本当にその通り。司書の資格講習はどの大学でも行われ、さも努力すれば司書になれるみたいな努力神話がまかり通っている。全く違うぞ!とにかくどうしても図書館で働きたいと思っている若手は一度考え直して欲しい!やりがいで搾取されてからでは遅い。

どうしても官の場で生計を立てたいなら、現時点では、正規公務員になるという選択肢が一番早い。年齢制限が59歳までという自治体もあるから、とにかく探して動いた方が良いと思う。もしくは非常勤+副業か。賃上げ運動や雇い止め訴訟に消費する時間と金が私には勿体なく思えて仕方がないのだ。


※追記
そして、何かと批判され、社会的需要も高い児童相談所。ここも労働環境の課題がある。

増える虐待、対応「もう限界」 児相職員、すり減る心身
https://www.asahi.com/articles/ASJC31D7FJC2UTIL077.html

誰かを救うということは、まず自分がずっしり構えられる余裕がないと総崩れだ。

児童相談所で働くケースワーカーは、繊細な案件を一人辺り100件以上持つという。ワーカーさんはいつも外回りに出ているので電話をかけても不在のことが多い。休憩とる暇も休む暇もないのではないか。おまけに職員数が少ないだけではなく、この分野にも非正規雇用が多数の業務を支えている。
児童相談所の管轄は今は東京都にある。福祉保健局の採用ページを見て欲しい。非常勤の児童相談員関連の求人が多数出ている(2018.6月現在)
これだけ専門性の高い仕事を月給19万、雇用期間1年足らずで雇うの?こんな待遇で満足に人を救えるの?

これが役所の人件費削減の結果である。

児相が救ってきた命もたくさんある。
けれど、それは個人情報に関わるところだから見えづらくなっている。

必要なところに人をもっと配置してください、使うところにもっと予算を積んでください。官の安売りはもう辞めてください。

事件があると、児相に電話して意見するというのが増える。その対応に貴重な時間をとられたら本来の業務に支障がでるのではないか。その冷やかしの電話一本が本当に手助けが必要な人の電話を遮ってしまう。役所には公聴課みたいなご意見を聞く部署がある。児相に直接言うのではなく、そちらに言えばいい。(ちなみに役所のコールセンターは民間の派遣社員がやっている。)

官の中でも身を削りながら社会のために働いている人がいるということを、まずは認識して欲しい。

※このような長文を最後まで読んで頂きありがとうございました。